【AR×医療】クモ恐怖症を克服するARアプリを体験してみた

医療 × AR/VR

AR/VRは医療の分野でも多く研究開発で用いられているのはご存知でしょうか。
例えば実際に活用されている例では、戦争でPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患った退役軍人の治療にVRが使用されています。「Bravemind」と呼ばれるそのVR治療ソフトでは、PTSDに対し「暴露療法」と呼ばれる治療方法が行われています。

暴露療法とはどのような治療なのでしょうか?

暴露療法は、不安にさらされていると次第に慣れていくことを利用した治療法です。不安障害の治療では、どこかの時点で不安に立ち向かっていき、克服して自信をつけていく必要があります。

引用:暴露療法(エクスポージャー)とはどういう治療法なのか

退役軍人に対する治療用VRソフト「Bravemind」では、実際の戦地に近い風景や音をVRで体験させることで、患者に少しずつその刺激に慣れさせていくという暴露療法が行われています。
AR/VRでは、いま目の前にない風景や物を視覚的に、具体性を持って出現させることができるため、こういった治療と相性がいいことが推測されます。

さて、そういったようにAR/VRが利用される暴露療法ですが、もっと身近な内容で体験することのできるアプリがリリースされました。

それがクモ恐怖症を克服するための「Phobys」というARアプリです。

Phobys とは

画像引用

「Phobys」は2021年秋にリリースされた、クモ恐怖症を克服するARアプリです。
Phobysの研究開発にはスイスのバーゼル大学と、マインドガイド(バーゼル大学発の企業geneGuide社の一部門)が携わっており、実際の臨床試験も行われている科学的根拠に基づいたアプリです。

試験では、Phobysを利用することで参加者の実際の様子、その後のアンケート回答の両方においてクモに対する恐怖心・嫌悪感が減少したことが明らかになりました。
(試験の論文も公開されており、こちらから確認することができます: リンク

〜注意〜
※重度の恐怖症をお持ちの方は、ひとりでPhobysを使用しないことが推奨されています。
※ここからは体験記事で、アプリに使用されているクモの3Dモデルをスクリーンショットとして掲載しています。苦手な方はご注意ください。

体験してみる

それでは早速体験してみます。

ちなみに筆者は、小さいクモは平気ですが3cm以上などの大きいクモは苦手で恐怖を感じます。
Phobysでは体感4, 5cm程度の大きめのクモが現れるようなので、被験者としてはちょうどいいのかもしれません。

恐怖症克服アプリのためか、UIには逆にポップで可愛らしいイラストが使われています。ユーザーはリラックスした気持ちでスタートできそうですね。

起動すると最初に体験前の説明書きが表れます。しっかり確認しましょう。

Phobysは日本語非対応(2022年4月現在)なので全文英語ですが、要約するとこのようなことが書かれています。

・Phobysはクモに対する恐怖症を軽減するためのトレーニングプログラム
・仮想クモ(ARで表示する3Dモデルのクモ)を観察する
10段階の刺激レベルがある
対象となるのは、16歳以上、クモに対する恐怖が軽微にある、健康に不安のない、体調のいい人
汗をかく、動悸がするなどの重度の恐怖症を持つ人は専門家に相談すること

同意できる方のみ体験するようにしましょう。

注意書きの後はレベルの表示が表れました。

Phobysは10段階の刺激レベルで、少しずつ恐怖心を慣らす体験ができます。

無料版では上部にある「Gentle Test(優しい刺激のテスト)」「Scary Test(強い刺激のテスト)」の2モードを試すことができ、全10レベルを解放するには610円のアプリ内課金が必要となります。

こちらの記事では無料版の2モードのみを体験します。

Gentle Test

まずは「Gentle Test(優しい刺激のテスト)」を試してみます。
このモードではほとんど刺激のない状態で、クモに慣れていく練習を始めることができます。

まずは平面を認識し…

クモを表示させたい平面をタップすると、クモの3Dモデルが現れました。

体感4, 5cmくらい。日本の家ではあんまり見かけないような、結構大きめのクモでちょっとびっくり…!

体験としては、左上に表示される時間メーターがなくなるまで、カメラごしにバーチャルのクモを観察するのみです。
「Gentle Test」では、バーチャルクモは床面をこそこそと動き回り、ユーザーはそれをただ観察して慣れていきます。

個人的な感想ですが、バーチャルといえど、結構足の動きなどがリアルでした。クモがかなり苦手…という人はこれだけでも刺激があるかもしれません。
筆者の場合は、そこまで怖がらずに体験を終えることができました。

体験の後はどれくらい恐怖を感じたかのアンケートに回答します。

こちらの「Gentle Test」で充分怖かった、という方は「Scary Test」は試さず、10レベル版の購入して少しずつ治療する、というのを検討してみてはいかがでしょうか。

全然怖くなかった、という人は無料版で用意されているもう一つのモード「Scary Test」を試してみてもいいかもしれません。

Scary Test

「Scary Test」では「Gentle Test」よりもさらにクモが近づいてくる体験をすることで、自分がどこまで恐怖心を持っているか確認することができます。

体験内容としては、想像よりもクモが近くに来る、結構びっくりする内容でした。(刺激強めなのでスクリーンショットも無しとします)

「Gentle Test」の次に優しいレベル、というよりも恐怖心をある程度感じるテストの例、という位置付けだと思いますので、不安のある方は「Gentle Test」のみにしておくのがおすすめです。

まとめ

AR/VRは前述のとおり、いま目の前に存在しないものを出現させることができるため、暴露療法への有効活用が期待されます。

暴露療法とは一般的には、専門家が付き添いながら刺激の程度をコントロールして、患者に合わせたペースで治療を行なっていきます。

その中でもこのPhobysは、クモ恐怖症という身近で低刺激なテーマを用いることで、ユーザーが自ら恐怖症を克服できるAR/VRの活用として貴重な例なのではないでしょうか。

関連リンク

Phobys公式サイト
https://www.phobys.com/

Phobysダウンロード
iOS: https://apps.apple.com/us/app/phobys/id1527481614
Android: https://play.google.com/store/apps/details?id=com.Unibas.Phobys

参考記事・文献

戦場のPTSDをバーチャル・リアリティーで治療(上) – WIRED 2005

VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学 – ジェレミー ベイレンソン