近年、AR技術は様々な分野で活用されるようになり、私たちの生活に身近なものとなりつつあります。ゲームの「ポケモンGO」をきっかけにARブームが起こり、観光業や商品のプロモーションなど、ARを目にする機会が飛躍的に増えました。
製造業においてもAR技術の活用が進み、生産性向上をはじめとした様々なメリットをもたらしています。
本記事では、ARの概要から製造業における具体的なメリットと活用事例まで、詳しくご紹介します。
- ARとはそもそも何か
- ARを製造業界に導入するメリット
- ARの製造業界での導入事例
ARとは何か?
AR(Augmented Reality:拡張現実)は、現実世界にデジタル情報を重ね合わせる革新的な技術です。スマートフォン、タブレット、XRグラスなどのデバイスを通して、目の前に見える風景に情報やオブジェクトを映し出すことで、現実世界を拡張し、新たな価値を生み出すことができます。ARの特徴としては下記の点が挙げられます。
- スマートフォンやタブレット、ARグラスなどで利用可能な点
- 情報やオブジェクトをリアルタイムに表示できる点
- 双方向での体験をすることができる点
これらのARの特徴は製造業に対して大きなメリットをもたらしています。その点について以下で解説していきます。
製造業にARがもたらすメリットと解決策
現実世界を拡張させることができるAR技術は、製造業において様々な場面で活用することができます。
ARを活用することで何が可能になるのか、またどのような課題を解決できるのかをご説明します。
- メリット①|遠隔指導・作業支援
- メリット②|メンテナンス・点検の効率化
- メリット③|品質管理の強化
- メリット④|安全性の向上
メリット①|遠隔指導・作業支援
ARによって、熟練の技術者や専門家が現場以外の場所から作業員を指導・支援することが可能となります。
具体的には、作業現場の映像をリアルタイムに遠隔地に送信し、管理部門担当者、もしくは専門家が作業員に指示やアドバイスを出すことができます。
そのため経験の少ない若手の作業員であっても、熟練者のように作業ができるようになります。
これにより、人材不足や技術継承の課題の解決や生産性の向上、品質の安定化が期待できます。
メリット②|メンテナンス・点検の効率化
従来のメンテナンス・点検では、膨大な量の紙のマニュアルを参照する必要があり、時間と労力が必要でした。
しかしAR技術を活用することで、必要な情報や手順をARマーカーや3Dモデルで表示し、作業員は効率的に、漏れがなくメンテナンス・点検を行うことが可能になります。
作業時間の短縮、作業ミスの削減、メンテナンス・点検コストの削減などが期待されています。
メリット③|品質管理の強化
ARにより、製品の品質をより詳細に検査することが可能になります。
具体的には、製品にARマーカーを貼り付け、検査員はXRグラスを通して製品の欠陥や不具合を拡大表示して確認することができます。
これにより、検査精度向上、不良品の削減、品質コストの削減などが期待できます。
メリット④|安全性の向上
AR技術を活用することで、作業員の安全性を向上させることができます。
具体的には、危険箇所をARマーカーで表示したり、作業手順を3Dモデルで表示したりすることで、作業員は危険を認識し、安全に作業を行うことができます。
これにより、作業事故の削減、労災コストの削減などが期待できます。
ARの製造業における導入・研究事例
製造業に様々なメリットをもたらすARですが、すでに様々な企業でARサービスが開発、活用されています。
実際に使われているAR技術を用いたサービスや活用例をご紹介します。
- 事例①|日立グループ
- 事例②|東芝グループ:Meister AR Suite
- 事例③|三菱重工業株式会社:MR グラス活用
- 事例④|トヨタ自動車:HoloLensの活用事例⑤|RobotStudio ARビューア
事例①|日立グループ
モーションセンシングとAR技術を融合させた革新的な技術を開発しました。この技術により、熟練者や専門家の手と指の動きを精緻に計測し、遠隔から作業の「お手本」を見せることを可能にしました。
具体的には、熟練者の頭部や手と指の動作をモーションセンシング技術を用いてデジタルデータとして取り込みます。そして、作業者は装着したスマートグラスなどのARデバイス上で、熟練者(アバター)の頭部・手指の動きをリアルタイムに確認することができます。
これにより、遠隔からリアルタイムかつお手本を見せたい位置で直感的に作業の動作を教示することが可能となり、効率的な技能伝承を実現します。
▼公式ページ
https://www.hitachi.co.jp/rd/news/topics/2023/2303_ar.html
- モーションセンサーとは、物体の傾きや動きなどを感知する機能のこと
事例②|東芝グループ:Meister AR Suite
Meister AR Suiteは、AR技術を活用したデジタルコンテンツをノーコードで作成・編集できる「ストーリーデザイナー」と、作成したコンテンツを再生・閲覧できる「ストーリービューア」を統合したソリューションです。
設備点検やトレーニングの際、ノーコードで作成したARオブジェクトをデバイスで表示させることができます。これにより、設備のオペレーションやメンテナンスにおける現場業務の効率化や、熟練者からの技術継承などの課題解決を実現します。
▼公式ページ
https://www.global.toshiba/jp/products-solutions/manufacturing-ict/meister-ar.html
事例③|三菱重工業株式会社:MR グラス活用
三菱重工株式会社では、航空機胴体パネルの組立て作業において、図面による作業指示が分かりにくく、位置や種類、工作方法などの確認に時間がかかり、ミスが発生するリスクがありました。
課題解決のため、作業者が装着するヘッドマウント型MRグラスに、実物に対して取付け後の部品を含む3Dモデル及び、作業箇所にリベット(建築業界で使用されるネジの一種)の位置や種類、工作情報などを重ね合わせ表示するシステムを導入しました。
このシステム導入により、作業者は図面やテンプレートを参照することなく、リベット・部品の位置や形状、方向を瞬時に把握できるようになり、作業効率化と品質向上を実現しました。
▼参考資料
https://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/593/593090.pdf
事例④|トヨタ自動車:HoloLensの活用
トヨタ自動車は、マイクロソフト社と連携し、AR技術を活用した自動車整備作業効率化システム「HoloLens 2」を導入しました。
ARグラス「HoloLens 2」は、車両情報や作業項目を現実空間に立体的に表示し、タッチ操作や音声・目線での操作を可能にします。
これにより、整備士は両手をふさぐことなく必要な情報にアクセスでき、作業効率を大幅に向上させることができます。
さらに、視界を共有する機能により、遠隔地にいる熟練整備士からのリアルタイムな指導やサポートも可能となります。
▼参考ページ
https://newswitch.jp/p/24015
事例⑤|RobotStudio ARビューア
RobotStudio ARビューアアプリは、RobotStudioで作成された3Dモデルを実際の生産環境に重ね合わせ、様々な角度から確認できる革新的なアプリケーションです。
このアプリを使用することで、ユーザーはロボットのサイズ感や占有スペースを正確に把握し、周辺の既存の生産設備との干渉や配置の適切性を事前に確認することができます。
さらに、複数のロボットモデルを実際の生産環境に重ね合わせることで、工場のフロアの配置イメージをシミュレートし、最適なレイアウトを検討することができます。
▼参考ページ
https://iotnews.jp/metaverse/157724
まとめ
この記事ではARの製造業界建築業界での導入事例について解説してきました。
ARを使った取り組みの成功事例を参考にする場合、「どういった目的で、どんな技術を、どのように扱うか」を精緻に把握することがとても重要です。
AR導入においては、新規事業の検討や業務フローの整理を行うため、数百万円あるいは、数千万円のプロジェクトに発展する場合があります。DXの文脈であっても餅は餅屋です。ARに知見のある会社に依頼しましょう。
また、もっと詳しくARの活用事例を知りたいという方は、事例集を有効活用してARの施策の実行・改善にお役立てください。