AR(拡張現実)技術は、ゲームやエンターテイメント分野だけでなく、教育現場でも革新的な変化をもたらしています。ARを活用することで、従来の授業では難しかった体験型の学習が可能になり、生徒の理解度や学習意欲の向上に繋がっています。
本記事では、ARが実際に学校教育でどのように活用されているのか、具体的な導入事例をご紹介します。さらに、ARを教育現場に導入するメリットを3つの観点から解説し、ARが教育にもたらす可能性を探ります。
- ARとはそもそも何か
- ARの学校教育に導入するメリット
- ARの学校教育での導入事例
ARとは何か?
AR(拡張現実)とは、現実世界にデジタル情報を重ね合わせる技術です。スマートフォンやタブレット、XRグラスなどのデバイスを通して、目の前に見える風景に情報やデジタルオブジェクトを映し出すことで、現実世界を通して更なる体験を提供します。
AR技術の特徴は以下の4つです。
- 現実世界を拡張する点
- スマートフォンやタブレット、ARグラスなどで利用可能な点
- 情報やオブジェクトをリアルタイムに表示できる点
- 双方向での体験をすることができる点
これらの特徴は、本記事で解説する医療分野以外にも学校教育などでも役に立っています。
ARが学校教育に提供するメリット
具体的なメリットを事例も含めて見ていきましょう。
- メリット①|学生の学習意欲の向上
- メリット②|学生の理解度の向上
- メリット③|学習の効率化
メリット①|学生の学習意欲の向上
AR技術は、学生にとって退屈に感じやすい授業内容を、インタラクティブで体験的な学習へと変貌させる可能性を秘めています。
例えば、歴史の授業では、AR教材を活用することで、過去の出来事をまるで目の前で起こっているかのようにバーチャルに再現し、生徒をその時代にいざなうことができます。また、理科の授業では、人体模型を3Dで観察し、臓器や骨格の構造をあらゆる角度から詳細に理解することができます。
このようなAR技術による没入感のある学習体験は、生徒の好奇心を刺激し、より深く学ぶ意欲を引き出す効果があります。従来の一方的な知識の伝達ではなく、生徒自身が主体的に情報を探索し、理解を深める学習スタイルへと導くことができるのです。
メリット②|学生の理解度の向上
AR技術は、抽象的な概念を視覚化し、複雑な構造を分かりやすく表現できるため、学生の理解を深めます。例えば、数学の授業では、幾何学図形を立体的に表示することで、空間把握能力を高め、より直感的に理解することができます。化学の授業では、分子の構造をインタラクティブに操作することで、化学反応のメカニズムを視覚的に捉えやすくなります。
さらに、ARを用いた教材は、従来では再現が困難だった災害時の状況や、人体内部の構造などをリアルに再現できるため、学習の幅を大きく広げます。
このように、ARは視覚、聴覚、触覚など、五感に訴えかける多角的な学習体験を提供することで、知識の定着を促進するだけでなく、学生の学習意欲を高める効果も期待できます。
メリット③|学習の効率化
AR教材は、インターネット環境さえあれば、いつでもどこでも学習できるという利点があります。自宅での予習復習はもちろん、移動中の隙間時間や旅行先など、場所を選ばずに学習を継続できます。
特に、地方や教育資源が限られた地域においては、AR技術が教育格差の是正に大きく貢献すると期待されています。都会の学校と同等の高度な教材や、専門性の高い先生の授業を、ARを通じてどこでも受講できるようになるためです。
地理的・経済的な制約を超えて、質の高い教育を誰もが受けられる社会の実現に、AR技術は大きく貢献するでしょう。
ARの学校教育に関する事例
それでは、実際にどのように教育現場でARが活用されているのか、具体的にどのような教育アプリが存在するのか見ていきましょう。
- 事例①|N高等学校・S高等学校
- 事例②|東明館学園 東明館中学校
- ⾼等学校・事例③|大阪府立三島高等学校
- 事例④|関西学院高等部:歴史教育
- 事例⑤|GeoGeek AR
- 事例⑥|Merge Cube
- 事例⑦|Lifeliqe HoloLens
- 事例⑧|Clio’s Cosmic Quest
事例①|N高等学校・S高等学校
学校法人角川ドワンゴ学園のN高等学校・S高等学校にて、体験学習プログラム『ARを使って・学んで現代版鳥獣戯画をつくろう!』が開催されました。
このプログラムでは、AR技術を活用して現代版の鳥獣戯画を制作する体験を通して、生徒たちはAR技術への理解を深め、創造性を育みました。
株式会社palanは、本プログラムにおいて、AR作成サービス「palanAR」の提供およびワークショップのサポートを実施しました。生徒たちは「palanAR」の直感的な操作性と豊富な機能を活用し、個性豊かなAR作品を制作しました。
▼関連リンク
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000217.000028239.html
事例②|東明館学園 東明館中学校・⾼等学校
東明館高等学校探究ハウスの1年生が、授業の一環として、基山町の駅前やモール商店街を中心とした各商店を取材しました。この取材内容をもとに、その特徴や魅力を活かしたARコンテンツを制作し、基山町と合同で発表会を行いました。
さらに、この企画で生み出された高校生の作品は基山町の観光資源として活用されています。
▼関連リンク
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000130767.html
事例③|大阪府立三島高等学校
副読本として指定している問題集の問題文面に、教員が作成した解説動画をAR技術で紐づけた事例です。生徒は家庭学習時、問題集の該当箇所にスマートフォンをかざすと、その問題の解説動画が再生されます。
この授業では、AR技術とアプリの使用方法について、関西大学総合情報学部の学生がスタッフとして参加し、生徒に直接説明を行いました。
▼関連リンク
https://storage.nakatani-foundation.jp/main/p/uploads/50e3677b0c39bb2db7f79bb39d98e28f.pdf
事例④|関西学院高等部:歴史教育
関西学院高等部の生徒たちが、キャンパス内の戦争遺跡をスタンプラリー形式で巡りながら学べるARマップ「KG PEACE MAP」を作成しました。
このマップは、当時高校2年生だった11人の生徒たちが自主的に企画・制作したものです。平和学習の授業を通して、身近な場所が戦争で被害を受けていたことを知り、より深く学ぶためにARマップの制作を計画しました。
▼関連リンク
https://www.kwansei.ac.jp/cms/kwansei_hs_/tankyu_site_2022/img/kgpiecemap.pdf
事例⑤|GeoGeek AR
GeoGeek ARは、AR(拡張現実)を活用した地理クイズアプリです。国旗や国の場所、首都の位置などをクイズ形式で楽しく学ぶことができます。
このアプリでは、現実空間にARの地球を表示し、その地球を舞台に様々な地理クイズに挑戦することができます。例えば、指定された国をARの地球上で選択したり、特定の都市を探してピンを立てたりするなど、インタラクティブな地理学習が楽しめます。
▼関連リンク
https://geogeek-ar.com
事例⑥|Merge Cube
Merge Cubeは、教育を目的としたARアプリケーションです。Merge Cubeを使用すると、デジタル3Dオブジェクトを手に持って操作できるため、これまでにない学習体験が可能になります。
Merge Cubeを通して、学生は以下の様なコンテンツを体験しながら学習することができます。
- 銀河を探索する
- 化石や古代の遺物について学ぶ
- DNA分子の構造を理解する
- 地球の核について学ぶ
- 仮想のカエルを解剖する
▼関連リンク
https://www.gizmodo.jp/2017/08/merge-vr-merge-cube.html
事例⑦|Lifeliqe HoloLens
HoloLens向けにリリースされた「Lifeliqe HoloLens」は、現実空間に様々な3Dモデルを投影し、まるでそこに実物があるかのように指で自由に動かしながら観察できる画期的なアプリです。
空中に浮かぶウィンドウに指で触れると、観察したい3Dモデルを選択できます。すると、目の前に心臓の標本や火山の標本などが、まるでSF映画のように現れます。
3Dモデルは、指でつまんで拡大縮小したり、回転させたりと、あらゆる角度から観察できます。さらに、サメの骨格を透かして表示したり、火山の断面を表示したりと、通常では見ることができない内部構造まで詳細に観察することが可能です。
▼関連リンク
https://moov.ooo/article/5eb9fb081b05ee0697dd2bdd
事例⑧|Clio’s Cosmic Quest
教育系ARアプリ「Wonderscope」を手掛けるWITHINは、同アプリ向けに宇宙をテーマにした新しい学習プログラム「Clio’s Cosmic Quest」をリリースしました。このプログラムでは、いじめへの対処法を学ぶだけでなく、STEM教育への興味を促進する内容も含まれています。
「Wonderscope」は、現実空間を舞台にしたインタラクティブな物語体験を提供するARアプリです。ダイニングテーブルやベッドの上など、身近な場所がたちまち物語の舞台に変わり、キャラクターたちが生き生きと動き出します。
このアプリの特徴は、画面越しに物語を見るだけでなく、キャラクターたちと実際に会話をすることでストーリーが進んでいく点です。子どもたちは、物語の世界に能動的に参加し、キャラクターたちとの交流を通じて、様々なことを学んでいきます。
▼関連リンク
https://wonderscope.org
- Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の4つの頭文字を取った教育法
- これらの分野を統合的に学ぶことで、論理的思考力、問題解決能力、創造性などを育むことを目的としている
まとめ
この記事では、ARの学校教育における導入事例について解説してきました。ARを活用した取り組みの成功事例を参考にされる際は、「どのような目的で、どのような技術を、どのように活用するか」を具体的に把握することが重要です。
教育分野でのAR導入を検討されている場合は、教育×ARの実績が豊富な企業に相談することをおすすめします。
さらにARの活用事例について詳しく知りたい方は、ぜひ事例集をご活用ください。AR施策の実行や改善に役立つ情報が得られるはずです。