京都大学が仏教の仮想世界「テラバース」構想を発表

2022年9月7日、京都大学 人と社会の未来研究院の熊谷誠慈 准教授、株式会社テラバースの古屋俊和CEOらの共同研究グループは「テラバース」の開発を発表しました。

現代は、感染症やロシア・ウクライナ戦争などの大きな社会的変化の影響で、相対的に物理的制約のない仮想空間への可能性が高まっているとし、テラバースはそんな仮想空間を精神世界にも応用するという構想を掲げています。

具体的には一体どのようなものなのでしょうか。

テラバースとは

「テラバース」とは仏教とメタバース技術を融合させた仏教仮想世界です。

「テラバース」は「一兆(テラ)の宇宙(バース)」という意味で、伝統知とテクノロジーを融合させ、重層的な精神世界を構築していくプロジェクトです。

ARで仏教対話AI「ブッダボット」と会話

テラバース開発チームはプロジェクトの第一弾として、AR(拡張現実)やAI(人工知能)などの技術を用いた「テラ・プラットフォーム AR Ver1.0」を発表しました。

これはARで現実空間に仏教対話AI「ブッダボット」のアバターを召喚し、ブッダと会話のできるものです。

ブッダボットのアバターは、質問やコメントに対し、仏教経典に基づいた解答をしてくれるとのこと。

使用されているブッダボットは、京都大学准教授の熊谷誠慈氏らの研究グループが2021年3月に発表したシステム(※)が使用されていますが、今回大きくアルゴリズムに改良が加えられ、学習データ数を増やす、学習対象の仏教経典を増やす、などの改善がされています。

ブッダで悩みを解決、仏教対話AI「ブッダボット」の開発 -伝統知と人工知能の融合-

今後は、スマートフォンの位置情報アプリと組み合わせ、ユーザーの位置情報に応じて仏教系アバターと出会うことのできる機能などの開発が予定されています。

テラ・プラットフォームVR

テラバース構想にはVR技術を使った「テラ・プラットフォームVR」も挙げられています。

このVR空間では、例えば仏教寺院などを仮想空間上にアバター寺院として建立し、本寺所属の小寺院の一種として利用できるなどの使い方ができます。

サイバー空間のアバター寺院は、寺院の(スタッフ不足などの)負担を少なく訪問者の対応などができる利点もあり、またフィジカル空間とサイバー空間の両方で寺院の行事を同時開催するなどの新しい宗教活動の展開も提案しています。

今後の展望

テラバースの今後の展望には、ブッダボット以外のアバター(例えば親鸞アバターなど)の作成や、バーチャル寺院・アバター寺院の建立が挙げられています。

また、継続的に使い続けてもらえるサービスの提供を目標とし、コミュニティの構築や、AIの活用で訪れるたびに新しい学びのある空間の作成を目指しています。

テラバースには参加できるのか?

テラバースは2022年9月現在、当面は学術利用とモニター利用のみとし、一般公開はしない方針を発表しています。

理由には、不特定多数が誰でもアクセスできる空間は自由である一方で悪用などの懸念があることが挙げられています。

まとめ

「アバター」という言葉の語源は、宗教説話に登場する「(神や仏の)化身」だったとされます。

物理的制約から解放された仮想空間で宗教への理解を深めるのは、相対的に現実世界での生活や生き方を見つめ直す良い装置になるかもしれません。

プレスリリースでは「伝統知テック」という言葉が用いられていますが、こうした宗教とAR、VR、AIなどの最新技術を組み合わせた活動は珍しく、今後も注目のプロジェクトです。

プレスリリース「ブッダと会って話せるAR「テラ・プラットフォームAR Ver1.0」の開発―仏教仮想世界「テラバース」実現への一歩―」

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