palan代表 齋藤です!
AWE (Augmented World Expo) は、拡張現実 (AR)、仮想現実 (VR)、複合現実 (MR) に焦点を当てた世界最大級のイベントです。
2024年6月18日から20日までの3日間、米国カリフォルニア州ロングビーチで開催されました。 今年は、15周年記念ということもあり、過去最大級の規模で開催されました。
本メディアを運営している株式会社palanでも、ブース出展をし、AR作成サービスのpalanARのAIを活用した新機能などを展示しました。
こちらの記事でもAWE USA 2024の発表内容をいくつかご紹介していますが、今回はもう少し細かい体験なども踏まえたご紹介をしていきます。
【AWE2024】Snapdrgaonのエコシステムと現在は?NTTコノキューのグラス型デバイスやSONYの「SRH-S1」も登場!
AWE CEOのOri Inbarによるウェルカムキーノート
毎回の名物ともなっている、CEOのOri Inbarによるキーノートスピーチを簡単にご紹介します。
昨年のAWE USA 2023ではAIが非常に注目され、メタバースが減退していたこともあり、XRのこの先がどうなるのか?と界隈もざわついていたさなかということもあり、「XR is HARD」という意見に対する反証をしていくような、「世間はこういっているけれども成長中だ」というメッセージが中心でした。
今年のキーノートとしては「the time is now(今がそのときだ!)」という力強いメッセージでした。
その根拠としてOriは以下の5つをあげています。
- 2024年のXR市場が350億ドルにも及ぶこと
- 今後、2030年にかけ倍の700億ドルにも成長すること
- MetaやApple、GoogleやMicrosoftといった錚々たる企業がXRに参入していること(Apple Vision Proの発売も大きな要因です)
- コンシューマー向けサービスが30%、エンタープライズ向けが70%と大きな成長をしている
- 世界最高とも評されるベンチャーキャピタル、Andreessen Horowitz (アンドリーセン・ホロウィッツ、略称a16z)のJack Soslow氏の言葉を引用し、XRは「THE TIME IS NOW(今がそのときだ)」と投資家の注目を集めていること
動画はこちらです。
注目された発表
XRの中心プレイヤーたちが一堂に会するAWEでは、毎年各社大きな発表を行います。
いくつかの注目された発表をご紹介します。
Meta
2023年にMRヘッドセット、Meta Quest 3を発売したMetaは「Meta Quest Lifestyle App Accelerator」というアクセラレータの発表がありました。
これはライフスタイル分野(DIY、デザイン、クッキングなど)が対象となり、資金提供及びMetaやVCによるメンタリングを受けることができるプログラムです。
Meta Questシリーズは主にゲームやエクササイズ、VR上でのコミュニケーションなど、どちらかというとエンターテイメント寄りなユースケースが主なものでした。
今回のアクセラレータは「日常生活でもMeta Questをかけ、毎日を便利なものにする」ことを目指すメッセージでもあると思います。最近はApple Vision Proを明らかに意識したリリースも多い中、Spatial Computerを謳うAppleに対抗する狙いもあるのではないでしょうか。
Niantic
Nianticは新しいサービス、Niantic Studioをリリースしました。
これはWebARライブラリの8th Wallを用い、ノーコードでも簡単にARコンテンツの作成ができるというものです。またゲームエンジンを組み込んでおり、簡単なゲームであればNiantic Studioで作成し、すぐWeb上で公開可能です。
また、Magic Leap 2のARDK組み込みも発表され、今まであまり進出してこなかったエンタープライズ分野への参入も見込んでいると思われます。
Nianticは「Next Generation Map」を謳い、3DスキャンアプリのScaniverse上で手軽に現実空間をスキャンし、またその地点を今後大幅に増やし空間コンピューティングの体験に活かしていくことも発表しています。
XREAL
XREALは事前に発表されていた、XREAL Beam Proのお披露目を行いました。
これは3D 空間撮影カメラが搭載されており、3D写真や動画を簡単に撮影可能な、ARグラス専用アクセサリーデバイスです。価格としても3万円台と比較的リーズナブルです。
Snap
若い世代に人気のメッセージングアプリSnapchatを提供するSnapからは、AR開発プラットフォームLens Studioの新しいバージョン5.0が発表されました。
この中で大きい機能は、AI Assistantです。プロンプトを打ち込むだけで、フィルターを簡単に作成することができます。
NTTコノキュー
今回、日本からNTTドコモの子会社であるNTTコノキュー、及びシャープとの合弁会社であるコノキューデバイス社は、クアルコム社のSnapdragon Spacesに対応したARグラスデバイスを発表しました。
私もかけてみましたが、何より旧来のARグラスと異なり無線の為、つけ心地がとても良いものでした。
博物館を想定した展示コンテンツを体験しましたが、発色もよく体験価値の高いARグラスだと感じました。
実際にブースを回って良かった展示ブース
echo3D
echo3Dはアメリカ、ニューヨークに拠点を持つ3Dの管理サービスを展開するスタートアップです。
累計15億円ほどを資金調達し、ECやゲーム、簡単に3Dの素材を管理することができます。
驚いたのがシンプルなインタフェースにも関わらず、豊富な機能です。
素材管理としてバージョン管理やカテゴリで分類などはもちろん、例えば素材自体を圧縮し10%未満のサイズにすることができたり、様々な拡張子でエクスポート出来ることはもちろん、8th WallやModel Viewerのコードベースで書き出せたり、Unityアプリなど実際に動くところまで組み込みが簡単に出来ます。
ソースコードなどの場合、GitHubなどでバージョン管理をすることが多いですが、3Dファイルはサイズも大きく、バージョンの管理が煩雑になりがちです。echo3Dを活用することでこれらの課題が解決できそうです。
国内ですと弊社palanのpalan3Dもそうですし、ECに限ったサービスですとRITTAIさんとも重なる点があるかもしれません。
WILKINS AVENUE
日本の参加者の中でも大きな話題になっていたのが、フランスの没入体験プロダクションのWILKINS AVENUEによる、Out Thereというコンテンツです。
Apple Vision Proで体験できるコンテンツでしたが(Quest 3でも可能)、非常に映像も演出も音楽ストーリーもクオリティが高く、私も率直に感動してしまいました。今まで体験したApple Vision Proコンテンツの中でも、かなり体験価値が高いと感じました。
トレーラー動画はこちらです。
Benvision
Benvisionはオレゴン州ポートランドに拠点を置く、オーディオARのスタートアップです。
視覚に障害がある方が、周囲の環境を空間オーディオを使うことでナビゲーション可能なアプリケーションを提供しています。
BEN(Binaural Experience Navigator)は両耳による体験ナビゲーションを意味し、実際にデモをしましたがオーディオセットをつけ、歩きながらどこに何があるかを理解することができました。
技術としてはNianticのARDKを利用しているようで、スマホを胸に当てて歩くことで位置推定を行っているようでした。
今は少し片手がふさがるようなものになりますが、彼らも「ARグラスに対応していきたい!」と言っていましたし、実際にARDKがMagic Leapに対応した為、ハンズフリーで音声ナビゲーションが容易になるかもしれません。
少しエンタメよりな部分はありますが、日本ですとGATARIさんのAurisなどが近いかもしれません。
LBStech
韓国のスタートアップ、LBStechもバリアフリーな世界を実現しようとしているスタートアップです。
スキャナーにより道路をスキャンし、独自のマップを作成し、視覚に障害がある方の為の案内ガイドを提供しています。バリアフリーなスマートシティプラットフォームという目指す世界も素敵でした。
SpaceTags
SpaceTagsは空間上にタグ(情報)を設置することが出来るサービスです。
例えば製造現場で、機械のマニュアルを部品ごとに設置したり、現場スタッフの教育にも役立てることが可能です。
今は製造業中心ですが、この空間にタグを設置するというユースケースは、例えば観光や日常のナビゲーションなど、様々な用途でも今後活用出来るのではないかとも感じました。
ZAUBAR
先程のSpaceTagsに対し、よりロケーションベースで空間にコンテンツを配置可能なサービスが、ドイツのZAUBARです。
スマホ上で簡単に空間にコンテンツ(アートなど)を配置することが可能です。またAIによる素材生成も可能にしています。
道のナビゲーションや宝探し、観光や道案内でのユースケースがあるようです。
国内ですと、PinnARさんが屋外ナビゲーションという点では近いかもしれません。
Onirix
Onirixはスペインの企業で、主にWebARの作成プラットフォームを提供しています。
約1.5億円ほどの資金調達を2022年に行っています。
その中でも彼らがより力を入れているのが、Spatial tracking(空間トラッキング)技術です。いわばVPSに近いようなもので、空間をスキャンしそこにコンテンツを重ねることが可能です。
こちらに近いところとしては、私達palanの提供するpalanARもですし、Spatial Trackingの技術としてはNiantic社の8th Wallの提供するVPSとも近い点があるかもしれません。
AWEを通じて感じたトレンド
AI💗XR
Oriのメッセージの通り、「AIはXRの脅威」ではなく「AIを上手く取り入れているXRサービス」が多いように感じました。
例えば韓国のスタートアップ、RebuilderAIはAIを使って3Dの作成が可能なサービスです。また他にも素材生成へのAIを活用や、AIによる対話コンテンツを開発しているブースを拝見しました。
palanARでもAIを活用し、素材生成が可能になる機能を発表しています。
Spatial ◯◯
Apple Vision Proの発売もあり、Spatialを頭につけたSpatial ◯◯というサービスが多く見受けられました。
XREALもSpatial Display、先程のOnirixもSpatial Tracking、intenvixはSpatial solutionsと謳っていました。ユーザーがイメージしやすいこと、またこれからの空間コンピュータ時代のキーフレーズとしてこの1年ではXRサービスに多く使われていくと思われます。
VR < MRデバイス
この1年での大きな変化として、VRゴーグルよりQuest 3、Apple Vision Pro等のMRデバイスの展示が圧倒的に増えていました。もちろんVRゴーグルによる没入感の高い体験を提示している企業もありましたが、時代としてMRや空間コンピューティングにデバイスのシフトが行われていることが伺えます。
日本企業の存在感!
先述のコノキューもそうですが、SONYやソニー・ミュージック、またサイバーエージェントやMawariの方が登壇、ブース出展をされていました。特にメインブースや大きなブースでの出展も多く、日本企業の存在感を感じました。
スタートアップでも、デザイニウム、Graffity、STYLY、そして私達palanと日本からの出展社もありました。STYLYさんはAuggie Awardsにも選ばれています🎉
また、特に懇親会などでは日本人の方がとても多く、期待や関心の高まりを感じます。
この1年でAR業界はどう動くか
これからの1年、何よりも業界的にインパクトが大きいであろうものは、Apple Vision Proです。
昨年、AWE USA 2023 のすぐ後にApple Vision Proが発表され、2024年に発売され、大きな話題を呼んでいます。
60万円近くする高価なデバイスな為、すぐに多くの人に広まることはないとは思われますが、空間コンピュータの概念は他のデバイスやソリューションなど、周辺のXR産業を大きく変えていくと思われます。
またAIをどうAR・VR業界が利用し、発展させていくかも大きなカギになるでしょう。
palanでも生成AIを組み込んだpalanARの素材作成や、ARによるナビゲーションなどを開発しています。空間コンピューティング時代において、誰でも手軽にARを作成し、空間を彩ることで、日常を豊かにできると信じています。
いずれにせよ、2023年より大きな動きが2024年にはあり、2025年のAWE USAも楽しみですね!
(同じロングビーチで開催されることが発表されており、今年と同様palanも出展予定です)
執筆:palan代表 齋藤
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