AR(拡張現実)/XRグラスは、現実世界にデジタル情報を重ね合わせることで、産業や観光、エンターテイメントなど、さまざまな場面で作業効率の改善、体験価値の向上などに貢献するデバイスとして期待されています。近年では、高性能化・小型化が進み、昨年から今年にかけては、国内外から注目のAR/XRグラスが続々と発表・発売されています。
そんな中、PCメーカーとして知られるDynabookが、2024年12月に両眼透過型のXRグラス「dynaEdge XR1」を発表しました。2025年3月10日に受注が開始され、合わせて仕様も明らかになりました。
本記事では、dynaEdge XR1の仕様・特徴を詳しく解説するとともに、ビジネス活用の可能性などについてわかりやすく紹介します。
dynaEdge XR1とは

dynaEdge XR1は、株式会社Dynabookが開発・提供する、両眼透過型のXRグラスです。ビジネスシーンや、エンターテイメント・観光など、幅広い用途での活用が期待されています。
発売日・価格・購入方法
dynaEdge XR1は2024年12月5日に発表され、2025年3月10日より受注開始しました。
販売サイト等はなく、公式サイトから問い合わせる形になっています。
https://dynabook.com/solution/xr/index.html
価格は公開されていません。(2025年3月21日時点)
開発までの経緯

Dynabookは、モバイルコンピューティングのリーダーとして、早くからウェアラブルデバイスの可能性に注目していました。特に、作業現場での効率化や安全性向上を目的としたデバイスの開発に力を入れており、スマートグラス・XRグラスの開発を進めてきました。
2018年に単眼型ウェアラブルデバイス「インテリジェントビューア AR100」を発売し、小型コンピューター「dynaEdge」シリーズとともに、経験が必要なメンテナンス業務や、倉庫内でのピッキング作業などで現場DXを実現するソリューションとして、製造業・物流業を中心に多くの企業に導入されてきました。
「AR100」は単眼型、産業用途がメインとなっていましたが、今回受注が開始された「dynaEdge XR1」は両眼透過型となっており、仮想UI表示領域が大幅に改善されました。デザインも通常の眼鏡のような形になり、産業用途に限らないさまざまな場面での活用が想定されています。
製品サイトでは、今後の展開についてこのように述べられています。

従来の「ディスプレイに目線を落とし、必要なときだけ、デバイスと関わるコンピューティングとの関係」を、XR技術により「目の前に見えている景色と情報の融合により、意識することなく、コンピューティングの恩恵を受けることができる関係」へと変化させるデバイスを生み出すことにより、コンピューティングとAIを快適に活用できる環境に挑戦します。
Dynabookは、「コンピューティングとサービスを通じて世界を変える」のビジョンのもと、AI時代も、人に寄り添う新たな「コンピューティングと人との関係」を実現していきます。
Dynabookは、XRグラスの開発を通し、人々の生活や仕事におけるコンピューティングのあり方が自然に溶け込むような、より豊かな体験・未来を提供しようとしていることが伺えます。
仕様
3月10日に明らかになった、dynaEdge XR1、dynaEdge C1の詳細な仕様はこちらです。
■dynaEdge XR1
- ディスプレイ:両眼カラー、左右各1,920×1,080ピクセル
- 表示モード:ミラーモード、サイドバイサイドモード
- ※LetinAR社の PinTILT™方式の薄型ミラーバー光学モジュール
- 視野角:対角約45°
- 輝度:最大約1,000nits(自動調整対応)
- カメラ:13メガピクセル、オートフォーカス対応
- コンピュータービジョンカメラ:モノクロステレオカメラ
- スピーカー:ステレオスピーカー
- マイク・ビームフォーミング、ノイズリダクション対応
- センサー:加速度センサー、ジャイロセンサー、コンパス
- インターフェース:USB-C™×1
- 質量:約89g
- サイズ (広げた状態):約163.6㎜(W)×約53.5㎜(H)×約173.8㎜(D)
- サイズ(畳んだ状態):約153.5㎜(W)×約53.5㎜(H)×約47㎜(D)
■dynaEdge C1
- SoC:オクタコア ARMプロセッサ
- スピーカー:モノラルスピーカー
- センサー:加速度センサー、ジャイロセンサー、コンパス
- インターフェース:USB-C™×2、USB-C™ 端子1(XRグラス接続)、USB-C™ 端子2(電源接続)
- 通信機能:Wi-Fi 6、Bluetooth® 5.2
- バッテリー:内蔵
- 質量 約222g
- 約65㎜(W)×約112㎜(H)×約27.2㎜(D)(突起部を含まず)
※製品サイトを参照
https://dynabook.com/solution/xr/index.html
特徴
dynaEdge XR1の仕様・特徴について、注目ポイントを紹介していきます。
1.薄型ミラーバー技術を採用、1,000nitsの高い輝度

dynaEdge XR1の特徴の一つは、韓国のスタートアップ・LetinAR社製のPinTILT™方式の薄型ミラーバー光学モジュールを採用している点です。レンズに入っている特徴的なスリット状の溝がミラーバーになっています。
この技術により、dynaEdge XR1は、光学系の大幅な小型化・薄型化を実現し、軽量でスタイリッシュなデザインを可能にしました。
また、PinTILT™方式は、高い光利用効率を誇り、1,000nitsという非常に高い輝度を実現しています。これにより、屋外などの明るい環境下でも、鮮明な映像を表示することが可能です。
PinTILT™方式についての参考ページ:https://letinar.com/en/pintilt
2.専用コントローラー「dynaEdge C1」
3つの操作モード

「dynaEdge XR1」の操作デバイスとなる XR コントローラー(dynaEdge C1)は、4 方向ボタンとタッチパッドを搭載し、XR コントローラーに目を落とすことなく、直感的に操作できることも特徴です。
4方向ボタン、タッチパッド、モーショントラッキング(ポインター)の3つの操作モードを切り替えられ、シーンに合わせて選ぶことができます。
さまざまな機能を搭載

また「dynaEdge C1」には、カメラ、スマートフォン連携、AIアシストなどさまざまな機能が搭載されています。
会話の文字起こしや翻訳、要約など、ビジネスシーンにおける作業効率の向上が期待できます。
■AIアシスト機能
- 会話アシスト:会話の文字起こし、翻訳、会話のヒントなどをAIが多角的にサポート
- ビューサーチ:その時に見えている風景全体からオブジェクトを自動でピックアップし、AIが風景とモノの解説を表示
- ドキュメント要約:カメラで撮影した資料などを文字認識し、AIが要約して表示
- ビジュアル翻訳:風景の中にある文字列を識別、認識し、翻訳して表示
- 音声質問:気になることはAIに音声質問でき、回答を目の前に表示。スピーカーから音声でも伝えてくれる
■カメラ機能
- 撮影、さかのぼりビデオ、拡大鏡、写真
■スマートフォンとのシームレスな連携
- スマートフォンに届く情報をXRグラス上で確認
- 電話の発着信がXRグラス上で可能
3. 仮想デスクトップを3画面まで表示「dynaEdge XRワークスペース」

専用アプリケーション「dynaEdge XRワークスペース」をインストールしたPCと「dynaEdge XR1」を USB Type-C™で接続することで、XRグラス上に仮想デスクトップを表示させることが可能になります。
新幹線などでの移動中や、出張先・訪問先での作業でも複数画面で効率良く作業ができます。
※「dynaEdge XRワークスペース」のアプリケーションをMicrosoft Storeよりインストールする必要があります。
4. Dynabook独自の技術を適用し、かけ心地を追求
dynaEdge XR1は、長時間の装着でも快適に利用できるよう、かけ心地やデザインにこだわって開発されています。
デザインの監修は福井県鯖江市に本社を構える眼鏡のデザイン事務所、株式会社ソウウェルの代表取締役・アイウェアデザイナーの脇 聡 氏、株式会社東京メガネの座安 剛史氏が担当しており、肌に馴染み、普段使いしやすいデザインとなっています。
また、グラスのテンプル部分へのクッションにはDynabookの独自技術(※特許出願中)が使用されています。
実機レポート

2025年1月に開催された東京都主催のXR展示会「TOKYO DIGICONX」にて、Dynabookのブースでは「dynaEdge XR1」が展示されており、WebARLab編集スタッフも実機を試してきました。
実際に見るとディスプレイ内蔵型ながらレンズが薄く、デザインも眼鏡の専門家の監修を受けているだけあり、高級感のある仕上がりになっています。
耳および鼻に当たる部分にはクッション材が配されており、装着時の負担を軽減する工夫が施されていました。
専用コントローラーも片手で操作可能なサイズであり、4方向ボタンおよびタッチパッドにより、直感的かつ容易な操作が可能でした。
実際に装着してみると、照明が明るめの会場の中でも映像はクリアで明るくはっきりと見ることができました。
活用事例
「AR100」は産業用途がメインとなっていましたが、「dynaEdge XR1」は観光、エンターテイメントなど、さまざまな場面での活用が期待されています。
現場DX領域

ピッキング支援:製造や物流の現場において、入庫・出庫作業は効率化が求められる業務です。dynaEdge XR1は、棚や物品の情報を視界に表示することで、作業者の移動距離と探索時間を大幅に削減します。作業効率は飛躍的に向上し、人員配置の最適化や省力化を実現できます。
遠隔支援:現場作業者の視界を遠隔地の支援者と共有し、リアルタイムでの指示やアドバイスを可能にします。迅速かつ的確な問題解決が実現し、移動時間やコストの削減にも貢献します。
教育・トレーニング:作業手順やマニュアルを空間に表示し、ハンズフリーでの作業学習を支援します。作業者は実践的なスキルを効率的に習得し、企業は教育コストの削減と従業員のスキル向上が実現できます。
観光、エンターテイメント等

博物館や美術館:
展示物の詳細情報や背景解説をAR表示することで、来場者は展示物を多角的に理解することができます。例えば、展示物に近づくと、関連する映像や3Dモデルが空間に表示され、より深く理解を深めることが可能です。
また、多言語対応も容易なため、海外からの訪問者もストレスなく鑑賞を楽しむことができます。
観光・街歩き:
目的地までの道案内、周辺の店舗情報や歴史的建造物の解説をAR表示することで、都市探索をナビゲーションするツールとなります。多言語対応のガイドも利用でき、まるで専属ガイドが同行しているかのような体験ができます。
フィットネス:
ランニングやサイクリング中、各種センサー・スマートウォッチと連動し、リアルタイムで速度、距離、心拍数などのデータを視界に表示します。フィットネスジムの運営者は、これらのデータを活用することで、会員一人ひとりに合わせた最適な運動プログラムを提供することが可能になります。
まとめ
「dynaEdge XR1」は、長年PCの開発・製造、産業向けグラスで実績を重ねてきたDynabookが手掛ける両眼型デバイスです。大手PCメーカーならではの技術力が、XRグラス、観光・エンターテイメントなど産業以外の分野においても発揮されることが期待されます。
また、海外メーカー製のデバイスが多いXRグラス市場において、純国産のデバイスであるという点も特筆すべき点です。国内企業にとっては、サポート体制面で安心感があり、導入のハードルが下がる可能性があります。
Dynabookは長年にわたり、日本国内のさまざまな企業や教育機関と連携し、ソリューションを提供してきました。そのノウハウを生かし、dynaEdge XR1も単なるデバイスとしてではなく、日本のXRグラス市場に新たな可能性をもたらす存在として、今後の展開に注目です。
palanについて

本メディアを運営するpalanは、dynaEdge XR1の「ビジネス共創パートナー」として提携を開始しました。
長年培ってきたAR領域における技術・ノウハウと、dynaEdge XR1を組み合わせることで、企業のDX推進や、社会をより良くするコンテンツ・事業の創出に貢献することを目指します。
リリース詳細:https://palan.co.jp/news/dynaEdgeXR1_partner
dynaEdge XR1を活用した開発について
dynaEdge XR1を活用した開発について、企画段階からご相談可能ですので、「自社のビジネスにどう活用できるかから相談したい」という場合でもお気軽にお問合せください。
XRグラス開発について詳細はこちら:https://studio.palanar.com/news/arglass_development
お問い合わせ先:https://studio.palanar.com/contact
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