近年、AR技術は目覚ましい進化を遂げ、エンターテイメントやゲームなど、様々な分野で活用されています。世界中で大ヒットとなった「ポケモンGO」は、AR技術が活用された代表的な例です。このように、AR技術はtoC領域において広く普及し、私たちの生活に身近なものとなっています。
一方、建設業界においてもAR技術の導入が進んでいます。建設業界は、人手不足、安全対策、技術継承など、様々な課題を抱えています。AR技術は、これらの課題解決に有効な手段として期待されています。
この記事では、AR技術とはどのようなものなのか、そして建設業界における導入のメリットと具体的な活用事例について詳しくご紹介していきます。
- ARの前提知識
- そもそも建築業界が抱える課題
- ARが建築業界に提供するメリット
- ARの建築業界における活用事例
ARとは何か?
ARとは、現実世界にデジタル情報を重ね合わせる技術です。スマートフォンやタブレット、XRグラスなどのデバイスを通して、目の前に映る風景に情報やオブジェクトを投影します。これにより現実世界を通して更なる体験を提供します。
ARの特徴として、下記のような点が挙げられます。
- 現実世界を拡張する点
- スマートフォンやタブレット、ARグラスなどで利用可能な点
- 情報やオブジェクトをリアルタイムに表示できる点
- 双方向での体験をすることができる点
これらのARの特徴が、建築業界が抱える課題を解決する鍵になる可能性を秘めています。
そもそも建築業界が抱える課題
建築業界は現在主に、3つの課題を抱えています。それが以下の3点です。
- 建築業者への就業者数の減少
- 高齢化と今後の大量離職の可能性
- 建設技能者の人手不足
各課題について、詳しく説明していきます。
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最近の建設業を巡る状況について
課題①|建築業者への就業者数と建築投資額の減少
近年、新しく建築業界へ入ってくる人材が少なくなっています。建設業就業者数(令和3年平均)は485万人で、ピーク時(平成9年平均)から約29%減、建設業者数(令和3年度末)は約48万業者で、ピーク時(平成11年度末)から約21%減となっています。
また建設投資額も大きく落ち込んでいます。
ピーク時の平成4年度の約84兆円から平成23年度には約42兆円まで落ち込みました。
その後は増加に転じ、令和3年度は約58.4兆円となる見通しですが、それでもピーク時から約31%減という状況です。
課題②|高齢化と今後の大量離職の可能性
新しい人材が建設業界に入ってこないことに加え、高齢化により大量離職の可能性があります。
建設業就業者は、55歳以上が35.5%、29歳以下が12.0%と高齢化が進行しています。また建設業就業者数は、令和2年と比較して55歳以上が6万人減となりました。(29歳以下は増減なし)。
このような状況の建設業界ですが、現場では若手は熟練者の技術を側で見て学ぶ習慣があることから、次世代への技術承継も課題となっています。
課題③|建設技能者の人手不足
「建築業者への就業者数の減少」と「高齢化と今後の大量離職」の二つの課題により、今後建築技能者の人手不足が発生するものと想定されます。
そのため生産性向上を進めていく必要性があります。その中で生産性向上の手段としてARに注目が集まっています。
ARが建築業界に提供するメリット
建設業界の課題である人手不足に対して、AR技術が活用できます。AR技術を用いることで建設業界にどのようなメリットがあるのか、ご紹介します。
- メリット①|設計・施工の効率化
- メリット②|コミュニケーションの円滑化
- メリット③|作業現場での安全性の向上
以下で詳細に解説していきます。
メリット①|設計・施工の効率化
AR技術を活用することで、設計図やBIMモデルを現場に投影し、実際の空間に重ね合わせて確認することが可能になります。
これにより、設計者や施工者は設計内容をより正確に把握し、施工ミスや認識のズレを減らすことができます。
またAR技術を用いたシミュレーションを行うことで、施工前に問題点を発見し、事前に修正することが可能になります。これは、工期の短縮やコスト削減にも繋がります。
- BIMモデルとは、Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略称で、建築物の形状や属性情報などを3Dモデルで表現したもの
メリット②|コミュニケーションの円滑化
AR技術を活用することで、設計者、施工者、クライアントなど、建築に関わる様々な関係者がリアルタイムで同じ空間を共有し、情報共有や意見交換を行うことが可能になります。
また、設計内容の理解度を高め、意思決定を迅速化することが可能になり、プロジェクトの円滑な進行が可能になります。
メリット③|作業現場での安全性の向上
AR技術を活用することで、作業現場の安全性が向上します。
例えば現場では、危険箇所の可視化、安全手順の提示、作業員の状況把握、訓練・教育の効率化が可能になります。
ARの建築業界における活用事例
これまで、AR技術が建設業界に与える影響について、課題とメリットの両面から詳細に解説してきました。
AR技術は、建設業界が抱える様々な課題を解決する可能性を秘めた革新的な技術です。しかし、実際にどのように活用されているのか、具体的なイメージが湧きにくい方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは、AR技術が建設業界において実際にどのように活用されているのか、具体的な事例を交えて詳しくご紹介していきます。
- 事例①|ASATEC:build+(ビルドプラス)
- 事例②|NEC:遠隔業務支援サービス
- 事例③|コマツ:Kom Eye AR
- 事例④|長谷工コーポレーション:AR匠RESIDENCE
- 事例⑤|清水建設:Shimz AR Eye
- 事例⑥|大林組:スマホdeサーベイ® AR版
事例①|ASATEC:build+(ビルドプラス)
build+(ビルドプラス)は、建築現場にAR(拡張現実)技術を用いて家、ビル、商業施設、マンション、工場などを表示させ、建築・建設時のイメージをリアルタイムに確認できる革新的なアプリケーションです。
住宅メーカー、ビル・マンション等の建設業者様の営業支援ツールとして活用が可能となっており、お客様への提案資料や営業活動の効率化、顧客満足度の向上に大きく貢献します。
▼関連サイト
https://asatec.jp/buildplus
事例②|NEC:遠隔業務支援サービス
NECは、現場作業者と支援者が映像と音声を共有し、リアルタイムで遠隔業務を支援するサービスを提供しています。
このサービスにより、支援者や熟練者が現場に赴かなくても、現場作業者の作業効率や正確性を向上させることができます。
支援者はモバイル端末から、作業現場にいなくても現場作業者を支援することができます。
一方、現場作業者はスマートグラスを着用することで、作業を止めることなく支援を受けられます。
▼関連サイト
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sl/remote/index.html
事例③|コマツ:Kom Eye AR
コマツとカヤックにより、「Kom Eye AR」というサービスが開発されました。
「Kom Eye AR」は、建設機械の「目」と言えるステレオカメラで撮影した映像と連動するARサービスです。
主な機能は、3D設計面のAR表示機能、建築機械の状況表示機能、データ連携機能などです。
3D設計面のAR表示機能とは、 運転席内のタブレットにカメラで撮影した映像と設計面3DモデルデータをリアルタイムでAR合成表示するものです。これにより、オペレーターは設計通りに施工が進んでいるかを直感的に確認しながら作業できます。
建築機械の状況表示機能では、2DミニマップとHUD表示によって、オペレーターが施工図面上における建機の現在位置、向いている方向や姿勢などの状態を確認できます。
データ連携機能は、常に最新の3D設計図面やモデルデータをダウンロード・表示することを可能にしています。
▼関連サイト
https://www.komatsu.jp/ja/newsroom/2018/20180718_2
事例④|長谷工コーポレーション:AR匠RESIDENCE
長谷工コーポレーション株式会社とアウトソーシングテクノロジー株式会社は、日本マイクロソフト株式会社と連携し、共同開発したマンションの外壁打診検査のためのアプリケーション「AR匠 RESIDENCE」をリリースしました。
「AR匠RESIDENCE」は、マイクロソフトのヘッドマウントディスプレイ「HoloLens 2」を装着した現場作業者が、打診検査を行いながらHoloLens上で検査記録を行う革新的なシステムです。
従来の打診検査では、作業者が打診結果を紙に記録していましたが、AR匠RESIDENCEでは、HoloLens 2上に検査結果を直接表示することで、記録作業の手間を大幅に削減します。
さらに、HoloLens 2のカメラ機能を活用して、打診箇所の写真を自動的に撮影・記録することも可能です。打診結果と写真が連動することで、検査内容の確認や共有が容易になり、作業効率の向上だけでなく、検査の精度向上にも貢献します。
AR匠RESIDENCEは、建設業界における打診検査の効率化と精度向上に大きく貢献する革新的なシステムです。本アプリケーション導入により、全体業務を約30%削減することに成功しました。
▼参考リンク
https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP642582_R21C22A0000000
事例⑤|清水建設:Shimz AR Eye
清水建設株式会社は、AR技術を活用した施工管理システム「Shimz AR Eye」を開発・実用化しました。
このシステムでは、携帯型タブレット端末上で建物のBIMデータとリアルタイムのライブ映像を合成表示し、施工中の設備配管や建物の土台の施工状況を可視化します。これにより、施工管理者は現場状況を迅速かつ正確に把握し、適切な指示を出すことが可能になります。
Shimz AR Eyeは、現在、BIMで設計された建物の新築・改修工事の18現場で試験適用されています。今後、さらに多くの現場への導入を目指しており、建設現場の効率化と安全性向上に貢献していく予定です。
▼関連サイト
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2021/2020060.html
事例⑥|大林組:スマホdeサーベイ® AR版
大林組によって開発された「スマホdeサーベイ® AR版」は、iPhoneやiPadに搭載されているAR機能を用いて、盛土や掘削土の土量計測や横断測量ができるアプリケーションです。
測量のための事前準備が不要で、現場に持参したiPhoneやiPadで計測範囲を指定するだけで誰でも簡単に計測できます。
計測結果をその場で確認できるため、土木・建築工事の日常的な測量業務を大幅に省力化可能となっています。
▼関連サイト
https://www.obayashi.co.jp/solution_technology/detail/tech_d223.html
まとめ
この記事では、建築業界におけるARの導入事例について解説してきました。
ARを使った取り組みの成功事例を参考にする場合、「どういった目的で、どんな技術を、どのように扱うか」を精緻に把握することがとても重要です。
建設・建築業界は、業界の高齢化に伴い労働人材不足や熟練技術者不足が発生している状況です。少ない人数での稼働や、外国人労働者を活用する状況で、品質を落とさずに進める必要がある中、労働者の安全確保は必須の課題となっています。
建築業をはじめとした「安全性向上」に関わる大事なテーマは、大手との取引実績がある会社に依頼するべきです。
また、もっと詳しくARの活用事例を知りたいという方は、事例集を有効活用してARの施策の実行・改善にお役立てください。