近年、音楽ライブの新しい形式として、AR=拡張現実を取り入れた「ARライブ(AR音楽ライブ)」が登場してきました。
ライブの新しい表現として注目されるARライブとは一体どのようなものなのでしょうか。
本記事では概要や、具体的な事例についてご紹介していきます。
ARライブとは?
ARは現実にないものを目の前に出現させる/合成する技術と要約できます。
そんなARと音楽ライブを組み合わせた方向性として、本記事では以下の2種類に分類できると考えて進めます。
1. 好きな場所で音楽ライブを楽しめる「ARライブ」
2. 実際のライブに演出としてARを使う「ARライブ」
1. 好きな場所で音楽ライブを楽しめる「ARライブ」
こちらは参加者が手持ちのスマートフォンのARアプリ/Webブラウザ(WebAR)で、自宅など好きな場所で楽しむことのできるライブです。
特徴として、実際のライブでは回避の難しい人同士の接触が避けられるため、コロナ禍でライブを実施する方法として注目されています。
また、好きな場所で、好きな角度からライブを楽しむことができるため、ライブと現実の風景をうまく組み合わせて、ユーザー自身が創意工夫して好きな演出を加えることができます。
こちらはシェア導線を用意すれば、意外な風景とARライブを組み合わせた写真としてSNSでの拡散や話題喚起にも繋がりそうです。
2. 実際のライブに演出としてARを使う「ARライブ」
ARは、実際の音楽ライブの演出として取り入れることでライブとデジタル世界を融合することもできます。
この形式の場合、一番その意義を発揮できるのは特にバーチャルキャラクターを現実に召喚してライブを行うケースではないでしょうか。
現実世界とバーチャル/二次元の世界を繋ぐには、一般的にディスプレイという媒体を挟む必要がありましたが、よりキャラクターが現実に存在するように表現するにはARが最適です。
事例
それでは具体的な事例を見ていきましょう。
いきものがかり「WHO?」Special Experience in Sony Store
2020年、いきものがかりはソニーのボリュメトリックキャプチャ技術※やXperiaスマートフォンなどを用いたARライブコンテンツを発表しました。
全国のソニーストア店舗では、期間限定でARライブの体験ブースが出現。
ユーザーは専用スマートフォンを手に取ることで、360度いろんな角度からARライブを楽しめます。
以下のレポート動画では、目の前に現れるライブを手のひらに乗せて楽しむシーンも確認できます。
こちらは(専用店舗でしか体験できないという制限はあるものの)、ユーザーがスマホを動かしながら好きな角度からライブを楽しめる、【1. 好きな場所で音楽ライブを楽しめる「ARライブ」】の事例です。
いきものがかり「WHO?」Special Experience in Sony Store
※ボリュメトリックキャプチャ(ボリュメトリックビデオ)についてはこちらの記事を併せてご覧ください。
『ZONe』 IMMERSIVE SONG PROJECT
エナジードリンクZONeが展開する「IMMERSIVE SONG PROJECT」は、バーチャルキャラクターがARライブを披露する施策を実施。
キズナアイ、花譜などが缶の前で自分だけのパフォーマンスを見せてくれます。
カメラ画面が暗くなって缶が発光する演出やグリッチなどは、まさにビデオシースルーAR(カメラ映像を加工して出力できるAR)の長所が活かされた素晴らしい演出です。
ユーザーが動画/写真を撮影することもできるので、以下のツイートのようにSNS投稿・拡散とも相性のいいライブです。
こちらの施策は【1. 好きな場所で音楽ライブを楽しめる「ARライブ」】の、SNSと相性のいい事例として参照できそうです。
KAGI NIGHT 2022
「KAGI NIGHT 2022」は、リアル会場とバーチャル会場で同時開催した音楽ライブです。
観客はボリュメトリックビデオの配信アプリ「Beat Wave」でメタバース会場を訪れたり、実際のライブ会場ではARアーティストと生バンドとのセッションも行われました。
こちらはボリュメトリックビデオのライブをメタバース会場でも楽しめる、という点では【1. 好きな場所で音楽ライブを楽しめるライブ】の分類に近そうです。(「AR」ではないですが…)
また、実際のバンドとARアーティストのリアルタイムコラボという点では【2. 実際のライブに演出としてARを使う「ARライブ」】の要素も含まれるでしょう。
この事例で使用されているアプリ「Beat Wave」では、撮影済みのパフォーマンス配信はもちろん、リアルタイムでのボリュメトリックビデオの配信も可能とのこと。
これはつまり、実際のライブ会場で行われているライブを、AR/VRで遠隔地から同時に楽しむことができるということです。
これからの音楽ライブはリアル/バーチャル問わず、同じ臨場感を持って楽しむことができそうですね。
にじさんじ AR STAGE “LIGHT UP TONES”
バーチャルライバー(Vtuber)グループのにじさんじが2021年に開催したのは、にじさんじ所属のVtuberたちがARで登場する音楽ライブ。
ライブは配信のみで行われましたが、映像の中ではまさにバーチャルキャラクターが現実世界に”存在”しています。
パフォーマンスはバンド演奏とバーチャルキャラクターの歌唱がリアルタイムで実施&合成されていて、その違和感のない見せ方や技術にも注目。
バーチャルキャラクターのARライブと言えば、現在は観客の前に巨大なスクリーンを設置し、キャラクターを投影する形式が一般的です。
例えば初音ミクのライブ「マジカルミライ」もこの形式として挙げられます。
しかし「キャラクターと現実の融合」という視点で見ると、これはバーチャル/現実の境界線がステージ/観客席で明確に引かれていると捉えられるかもしれません。
もちろん、バーチャル/現実の境界の有無はライブの完成度とは別の指標ですが、「にじさんじ AR STAGE “LIGHT UP TONES”」が成し遂げたのは、(配信限定だったとはいえ)生のバンドパフォーマンスと現実のステージ、そしてそのなかに存在するバーチャルキャラクターという、よりバーチャル/現実の境界の溶けた表現を、ARで実現した点と言えそうです。
その意味でも、【2. 実際のライブに演出としてARを使う「ARライブ」】でも特にARの意義をうまく活用した稀有な事例です。
正直、ライブ配信を見るまではどんな光景が繰り広げられるのかあまりイメージが膨らまなかったが、2日通して見た今はハッキリとVRではなくARでやる意義があったのだと切に感じた。本公演を単なる”人気者たちによる配信ライブ公演”だと高を括っていたなら大間違い、コロナ禍における音楽ライブの新たなあり方という側面としても非常に意義のある試みであったということを、ぜひ1人でも多くの人に届けたいと思う。
引用: 音楽ライブ配信の新たな可能性を切り開いた『にじさんじ AR STAGE“LIGHT UP TONES” 』DAY2レポート
にじさんじ AR STAGE “LIGHT UP TONES”
まとめ
本記事ではARライブの概要や実際の事例をご紹介しました。
ARを用いることで、音楽ライブはよりユーザーの身近なものになったり、楽しみ方が増えたり、またライブの次元を拡張することもできるでしょう。
これらの事例をぜひプロモーションやイベントの参考としてみてはいかがでしょうか。